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ポケット化学的清掃の意義

              岡野 吉喜(大阪保険医協会歯科)  2004.1.28提出     


 バイオフィルムによる歯周疾患発症概念iによれば次のように考えられる。 ポケット環境がバイオフィルム内で生息している歯周病菌にとって好適環境になると子供を沢山作るようになる。バブルに生まれた子供はやんちゃだ。浮遊性嬢細菌はバイオフィルムから放出遊離し歯周組織に付着,侵入し傷害を与える。急性期の嬢細菌は慢性期の細菌より為害作用が強い。歯周病菌の為害作用はポケット環境により左右され変化する。好適環境になればなるほど毒性が強くなるよう変化する。急性期の場合,浮遊性嬢細菌がバイオフィルムの外で活躍しているので抗菌薬の適応となる。ペリオクリンも有効である。
 一方慢性期の場合,歯周病菌はバイオフィルムに包まれ細々と棲息している。バイオフィルムのバリアーに阻まれて抗菌薬は効きにくい。ペリオクリンや抗菌薬は効果がないし意味もない。漫然とした投与を避けるべきだ。
 現在慢性期においてもジスロマックは効果がある。バイオフィルム透過作用が強いとかバイオフィルム溶解作用があると言う研究者もいるが,臨床でバイオフィルムがなくなった症例(プラークがない)を見たことがない。耐性菌の関係で今のところは効くと言って良いかも知れない。医科で乱用されているようだから,やがては効かなくなるだろう。
 歯周炎は細菌の構成成分や細菌が放出する排泄物(外毒素)や消化液(蛋白質分解酵素)により歯茎に炎症が起こることから始まる。細菌を破壊するために多形核白血球が消化液を分泌するが,逆に消化液によって歯肉が破壊され,歯肉の炎症がさらに拡大・進行する。この時放出される消化液(蛋白質分解酵素)の量は好中球の方が多い。歯周組織の破壊は細菌によるダメージよりも免疫機構による破壊の方が大きいと言われるのはこの理由による。
 ジンジバリス菌は非解糖系嫌気性桿菌で血液や歯周結合織の蛋白質を消化液(蛋白質分解酵素)によってペプチドやアミノ酸に分解し菌体内に取り込んで栄養源としている。多量のプロテアーゼを産生してポケットに放出しており,なかでもトリプシン様プロテアーゼ活性(gingipainsジンジパインと総称)は生体防御を含めた宿主機構を撹乱する。 
 また,口臭の原因としても消化酵素は注目されている。「口臭の認められる歯周病患者では,唾液中の白血球数と剥離上皮細胞数が有意に多い。これらの細胞などが唾液中のグラム陰性菌や白血球由来の蛋白質分解酵素などにより分解され,VSC(volatile sulfur compounds揮発性硫化物)などを産生する。」 (月刊保団連10月号一部改変 愛学院大口臭外来 福田光男教授) ちなみに『歯周病細菌と口臭(歯周病先端医療技術研究所2000年8月31日発行九大予防歯科教授古賀敏比古)』によれば,「Ratcliff&Johnsonの仮説によれば,口腔内細菌,上皮細胞,食物などが死滅あるいは分解して遊離されたシスティンやメチオニンなどから口臭の原因となる硫化水素やメチルメルカプタンが産生される」とある。産生する奴は誰か?自然に化学反応が起きるものなのか?いずれにしろシスティンやメチオニンは含硫アミノ酸で中性アミノ酸である。システィンは必須アミノ酸であるメチオニンより合成される。「口臭の原因が蛋白質分解酵素による」を記した論文が少ないだけに,この論文は注目に値する。
 これらの為害作用を排除する為には口中やポケットのプロテアーゼを除去すれば良い。wood pyros歯磨液はproteinaseと凝集反応するので歯周菌や好中球の放出するプロテアーゼによる炎症性破壊や消化酵素(gingipains)によってもたらされる免疫機構の攪乱を阻止することに貢献する。また,蛋白質やペプチドと凝集反応するので,歯周病菌のエサである蛋白質やペプチドをポケットから簡単に排除することが出来る。歯周病菌はエサである蛋白質も,栄養を取り込む手段である消化酵素も奪われてしまう。エサを絶たれ,捕食手段を奪われた歯周病菌は栄養不足に陥りやがて死滅する。しかし,現実には内皮からポケットに絶え間なく浸出液や剥離上皮が流れ込んでおりエサを完全に断ち切り歯周病菌を絶滅することは出来ないが,細菌数,滲出液量,出血量,歯周菌や白血球由来の消化酵素量などの減少 により上皮破壊能力が減少すると思われる。この効果は「口臭や出血が2週間位で止まる」という臨床結果となって現れる。
 近年歯周病原菌のプロテアーゼと歯周病の関係が注目されてきている。「ジンジパイン機能の抑制,プロテアーゼインヒビターによる治療法が多大な貢献をするのは間違いないであろう。」と言われるように,物理的に可能な限りの歯垢清掃と併せて化学的に可能な限りのポケットからのプロティン排除清掃を行うことは意味のあることと思われる。


【最後に】
  従来,化学的と言えば化学療法に視点がシフトし,「柿渋に殺菌消毒効果があるのか?」という質問が多い。殺菌消毒作用がなくとも「ポケット環境を歯周菌の不適環境に保てば発症しない」。食品である柿渋でも蛋白質,プロテアーゼ,ペプチドを可及的に排除すれば細菌のエサを減じ,細菌の活動性を弱め,消化液による為害作用を減じ,コラーゲンの三次元化による創傷治癒促進を図ることによって歯周疾患は改善することをデータは物語っている。
 「虫歯菌のエサは炭水化物特に砂糖。歯周病菌のエサは蛋白質」であるから「虫歯はシュガーコントロール。歯周病はプロティンコントロール」と提唱したい。
 wood pyros歯磨液は紹介によって広まり,ユーザー歯科医院数は3年間で92軒に至っている。使用患者数は概ね4000人/月と思われ,その効果の程を物語っている。
 家庭において物理的清掃である歯垢清掃だけでなく,日々放出される蛋白質,プロテアーゼ,ペプチドなどの起炎物質を日々化学的清掃によって除去することは理にかなっており,通常のプラークコントロールよりも更に改善効果があることは言うまでもない。
 成人の80%が罹患していると言われる歯周病は糖尿病や高血圧と同じように増悪しないよう,発症しないようコントロールすることが治療法となる。しかし、リコールに応じる患者は少ない。リコールに応じる明確な理由,必要性がないからだ。自覚症状はない、歯石はない、歯磨きは上手、と思えば行く必要はないと考えるからだ。医科のような成人病をコントロールするための薬や現況を把握するための検査表がないからだ。そういう観点から見るとwood pyros歯磨液はコントロールする薬に相当し,検査表は歯周基本検査表に相当し,「wood pyros歯磨液で良くなった。wood pyros歯磨液で助かった。」だから「wood pyros歯磨液が欲しい。歯周検査表で良くなったかどうか知りたい。検査が楽しみ。」と言って来院するのは当然のことだ。