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     Wood Pyros 歯周疾患発症論 
       copyright&written by yoshiki okano for 兵庫県保険医協会 2001.11.11

歯周病発症論を概念として心に留めおくことはWood Pyrosを使うにあたっても,また患者さんに歯周病を説明するにあたっても重要であると考えている。
「年だから歯茎は痩せるんですよね」を「歯茎が痩せるのは炎症が原因であって,炎症のない歯茎であったなら,年をとっても歯茎は痩せませんよ!!」と論破出来なければWood Pyrosを使う意味がない。
発症論はさまざまの人が書かれているが,独断と偏見に満ちていると思われるものもある。小生も独断と偏見で選んだ論文を引用して話をすすめたい。
「歯周病は感染だと息子が主張していた」という親戚の歯科医師を「息子に負けない知識を持った歯科医師にしたい」という願望と意図を念頭において書いたので,歯周疾患原因論の概念をイメージさせるため同じ事の繰り返し,コメント等くどくどしい所が多々あるが御容赦願いたい。

まず非常にわかりやすい基本的な発症論を引用して概念を構築したい。

3章 歯周疾患の原因論とその病型の分類
石川 純 北海道大学教授 歯学部第二保存学教室 (43-48 ペリオドンティックスの臨床 歯界展望/別冊 医歯薬出版 1977)                
 なぜ歯周組織が破壊されるのだろうか
このことについて古くから,歯槽骨は年をとるにつれて痩せていくのだという考えがあった。骨融解説Halisteresisと呼ばれるもので,氷の塊が融けるように骨もまた融け去るというのである。しかし今日までにこの説を実証した者はだれ一人いない。そして現在の実験病理学では骨破壊は破骨細胞によって起こるものであり,破骨細胞が出現する大きな理由としては,炎症,圧迫,無機能の三つが代表的なものであることが立証されている。
 もし仮に現在の科学的な世の中で、古色蒼然としたHalisteresisを歯槽骨破壊の原因と考える者があったとすれは,それはコペルニクス以前の天動説に固執するのに等しく.患者の救済は及びもつかぬことであろう。
 一つの疾患を根本的に治癒させるためには原因療法こそ基本であることはいまさらいうまでもない。ともすれば難治といわれ,再発しやすいといわれてきた歯周組織の疾患も,その原因はいまや憶説の時代から完全に脱皮して,全容を科学的な実証のもとにさらけ出している。疾患を征服するためにはその本態を正しく理解し,かつその原因を正確に捉えることこそ必要である。ここに実証に立脚した歯周疾患の原因論を,その分類とともに述べたいと思う。    

   1.原因論の概念図
 どのような疾患の原因を論ずる場合にも,全身論と局所論とがいわれるのは当然の考え方であろう.ところが齢蝕の原因ではもっばら局所論がいわれ,かつだれもがそうだと思うのに,同じ口腔内の疾患でありながら,歯周疾患の原因というと,とかく全身論が過大評価される傾向にあった。
歯周疾患が炎症を主体とする疾患である以上,局所的因子こそその主体を成すことは現代病理学の常識である。
(中略)           
 もし歯科医師が歯周疾患の患者に対して,・線診査や臨床症状をいちおう調べたうえにせよ,あなたの体質が悪いから・・・・・・というような理由で抜歯などに逃避するとすれば,その場合の体質とは科学的なproofのないかくれ蓑にすぎない。今日までにいったいどのような体質が分類され,しかも歯周疾患との相関を裏づけられているのだろうか。
 歯周病学は近年急速に体系づけられてきた歯科医学の一分野であるが,現在でもなお非科学的な実証性のない先入観や盲信がその原因論を支配しているとするならば,まことに嘆かわしい問題である。
 歯周疾患の予防や治療を困難にしている理由は,この疾患に対する学問的な体系が科学的に十分裏づけされていなかったこともあるが,そのなかでもとくに原因論に対する考え方にきわめて大きな問題点が潜んでいたように思われる。すなわち,ここでビタミン欠乏や代謝障害,血液疾患などの全身的因子を歯周疾患の病因論のなかにどう位置づけるのかということが問題になってくる。これらの全身因子は歯垢や歯石などの局所因子とまったく同列に考えてよいものであろうか。すなわちビタミン欠乏はそれ自体が直接歯肉に炎症を起こすと考えてよいのだろうか。(コメント- 同列と考えてはいけない)
 局所因子と全身因子とを考える場合,この両者が五分五分の,あるいはともすれば全身因子のほうが主体であるとするような錯覚に陥ることがある。この点に関してここではっきり述べておきたいのは,慢性辺縁性歯周炎とはその名の示すとおり炎症を主体とする疾患であり,炎症の原因について考えるに当たっては,あえて病理学総論を繙くまでもなく,その発生と進行に直接的・優先的に作用するのはあくまで局所原因であり,全身的原因は疾患を発生しやすくし,進行を促進させるような間接的・二次的因子であるということである。
 たとえば,プラークのまったく存在しない口腔に全身的因子だけでウ蝕が発生し,歯髄炎や歯根膜炎が起こったという例をだれが経験しただろうか。このことは慢性辺縁性歯周炎においてもまったく例外ではない。
 歯周組織の炎症を火災にたとえるならば,歯垢(デンタルプラークと呼ばれる細菌の固まり)を中心とした局所因子が“火”そのものに相当し,これなくしては物は燃えあがらない.一方火災が起こったときに空気が乾燥しているとか,風が強いとか,あるいは地震が起こったとかいうような周囲の因子は,火災の広がりや程度に影響を与えはするが,乾燥した空気や地震それ自体が火災を起こすことはありえない.火災におけるこのような修飾因子が歯周病では全身因子に相当し,まさに歯垢などの局所因子こそ直接の原因,すなわち火に相当するのである。
 局所の治療をまったく行わず,全身的治療のみで歯槽膿漏が癒ったというような報告で信頼するに足る証拠を示したものはまったく見ることができない。

(コメント)
歯肉炎はこのように考えても良いかも知れないが現代歯周学では考え方が違う。前文を例にとってみよう。
歯周組織の炎症を火災にたとえるならば,歯垢を中心とした局所因子が“病原性細菌と名付けられたマッチ”そのものに相当し,これなくしては火種が出来ない。火種を作る為にはマッチをこすらなければならない。火種を作るためのこのような修飾因子が現代歯周学ではレギュロンスイッチに相当する。

これを理解するには最後まで読んで頂く必要がある。「少し不正確な例えであるなぁー」とわかってくると思う。少々ニュアンス的に無理がある。

 ここで,われわれが実際に体験した急性白血病の一例について考えてみたい.血液疾患は古くから歯肉炎や慢性辺縁性歯周炎の全身的原因といわれてきた。患者は27歳の男性で,発熱と強い歯肉出血を主訴として内科に入院し,同時に歯科的処置を行ったものである。初診時の患者の状態は,全身倦怠感を訴え,口臭が強く,歯肉には高度の炎症を認めた.とくに下顎前歯部歯肉に深い仮性ポケットを形成し,その内部には大量の歯垢や歯石が蓄積していた。
 歯肉はきわめて出血しやすい状態なので,スケーリングやブラッシングを行うことは大量の出血を誘発する危険性もあると考えられたが,口腔腐敗症(oral sepsis)ともいうべき不潔な口腔を放置することは全身的にも好ましくないと考え,あえてそれらの処置や指導を行った。
 超音波スケーラーによる慎重なスケーリングは大量の出血を誘発することもなく,その日から軟らかい歯ブラシを用いて毎食後ブラッシングを励行させた結果,歯肉炎,歯肉出血,口臭も大幅に改善された。患者は心からそれを喜び,もっとよくなることを本人自身期待していたのだが,薬石効なく8日日に死の転帰をとったことはまことに残念であった。
 死に頻し,憔悴しきった白血病患者の歯肉炎に対しても局所に対する適切な処置を行うことにより,一般の歯肉炎の患者の場合と同じような効果をあげることができるのである。もともとこの患者に歯垢も歯石もなかったなら,白血病だけであれほど高度な歯肉炎が起こってきたであろうか。
局所因子こそ炎症の主役であり,局所因子の存在下にはじめて全身因子は病状を修飾するように働くのである
 

(コメント)
(Keyword1)局所因子こそ炎症の主役であり,局所因子の存在下で全身因子は働く

 この文献は古いが的を得ており,われわれの行くべき道筋を照らしてくれている。
完璧にプラークを除去出来れば歯周疾患は発生しない,改善すると言い切って良い。しかし,完璧にプラークを除去出来るか? 出来ない。限りなくプラークを除去出来れば歯周疾患は発生しない,改善すると言い切って良いか? 出来ない。
この回答が現代歯周学発症論である。先の論文は単純な子供のような論文である。政治の世界,どろどろした矛盾社会を生き抜いた大人の貴方なら,カオス(混沌)の中の真理追究の旅に耐えられるであろう。そして,これを読み切った時,貴方は歯周学の大家になれる。本当?

 この文献を取り上げた狙いは薬物が原因だ,成人病が原因だ,老化,etcを論点から外す狙いが私にある。いたずらにほかの原因を求め,プラーク除去を軽視しないようにして欲しいという願いがある。

 Wood Pyros 使用における条件も治癒条件も例外ではない。ただWood Pyrosの場合一歩進んで,ポケット内の起炎物質を除去出来ているのではないか? リスクファクターの軽減に寄与しているのではないか? ポケット環境改善に従来と違った機序で寄与しているのではないか?という治癒機序を推測している。
 
 上記の論文は不潔性歯肉炎であり,Wood Pyrosはこのようなくだらない低次元の症例解決を目指したものではない。とりあえず,プラークがなければ不潔性歯肉炎は生じない,不潔性歯肉炎は治るということを再確認した上で話を次ぎに進めたい。
 
 しかし,話はそれほど簡単ではない。現実に戻れば細菌は存在し,口腔の中は細菌で溢れている。歯肉溝を綺麗にすることは困難だ。どんなに綺麗にしても根絶することは不可能だ。消毒殺菌も困難だ。バイオフィルムという概念が導入され,消毒殺菌剤の困難さの原因としているがリンデ先生はクロルヘキシジンの効果を取り上げている。事実として取り上げていると解釈したい。論理の整合性はまだとれていない。実証主義は事実を大事にする。その隙間を埋めるべく奮闘されているものと思う。その時論理の整合性がとれ,目からうろこが落ちるようなLogic harmonyの快感に包まれる時が来ると思う。

バイオフィルム...要約すれば次のようになる。これは覚えておいて損はない。補足資料を添付した。

歯周病細菌は浮遊細菌として存在するのでなく、多種類の細菌とエコシステム(共生,共存関係)で凝集塊を形成し,キョウ膜様糖衣(glycocalyx)に被われた病原性バイオフィルムである。

(Keyword 2 )バイオフィルムとは多類細菌凝集塊がキョウ膜様糖衣(glycocalyx)で被われたもの

また,この論文では比較的綺麗に磨いているのに歯周疾患に陥っている人がいる,それ程綺麗でないのに歯肉炎に留まっている人がいるという矛盾,私の疑問に答え切れていない。
また,一歯の4面の内1面だけが何故ポケット値10ミリになるのだろうか? 全身の免疫能力が落ちているから歯周疾患が進行すると言うのであれば,4面全てが均一にポケット10ミリであるべきだし,全顎歯が全滅でなければならない。しかし,そうでもない。これは何故なのか? 授業で誰も答えてくれなかった。だから歯周学が嫌いになった。昔の教科書( 歯周治療学青野教授が執筆 寝心地の良い講義であった)を引っぱり出して今読んでみたが興味が湧かないし,あくびも出る。どうりで授業も眠たかったはずだ。インプラントの予後&メンテナンスにも不安を持っていた。これを解く鍵は次のキーワードである。

(Keyword 5)プラークは必要条件であるが十分条件ではない。十分条件はparasiteの器質変化,hostの感受性による(by okano)
(Keyword 10)一歯毎面毎に特異的な個性化された小宇宙,微小環境がある
このことは後ほど論じられ明らかにされる。

細菌が原因だと認める。その上で,現実世界に突入しよう。

現代の病因論でわかりやすいものを引用し現在の発症論概念を構築しよう。

古賀 敏比古 九州大学大学院歯学研究院口腔保健推進学講座教授
(459-461頁 先端医療シリーズ.歯科医学2 歯周病 先端医療技術研究所 2000年8月31日発行)
1,歯周病の予防と治療の現状と将来展望
1.2 プロフェショナルケアの推進の必要性
 これまでの歯周病の予防は、ややもすれば画一的なブラッシング法などの指導を行い、セルフケァに重点を置いたものであった。歯周病を発病した患者に対しては、患者自身のセルフケァの不足のせいにすることが多かった。しかし、セルフケァのみに頼る歯周病の予防の効果には、おのずと限界がある。歯周病は複数の病型からなる疾患であり、個々の人がもっている歯周病のリスクファクターは異なっている。今後は歯科医師や歯科衛生士のような専門家による個人がもつリスクファクターに対応したきめ細かな口腔保健指導や口腔健康管理が重要視されるべきであろう。とくに、専門家による定期的な歯石除去やPMTCは歯周病の予防には効果的である。21世紀においては、歯科医療は旧来の“疾患治療型"から“保健管理型"に転換すべきであろう。

(コメント)
私の時代の発症論概念は石川先生の論文のとおりである。罹患したり,改善しないのは歯ブラシの仕方が悪いからと家内をなじったが,人より歯磨きが上手と思っていた自分が52才になってやられ,やっとこれは大いなる過ちであることに気付いた。家内にも患者さんにもきつくあたり申し訳なく思う。

1.4 病因論に基づいた新しい歯周病予防法の開発の必要性
1960年代まで、歯周病の原因は歯石やプラークであると信じられてきた。その後、免疫学の発展にともない宿主の応答が重要視されたり、特異的な細菌が次々と歯周病の原因菌として浮上した。現在では、歯周病はいくつかの特異的な細菌と宿主との相互作用によって惹起されると考えられている。しかしながら、現在でも歯周病の予防は、1960年代の病因論に基づいた方法に頼ったままである。すなわち、歯石を除去するスケーリングとプラークを物理的あるいは科学的に除去するプラークコントロールが主な歯周病の予防法として用いられている。確かに、歯周病細菌が生息しているプラークを除去することやプラークが付着しやすい歯石を除去することは、歯周病の予防には一定の効果がある。しかし、今後歯周病の予防をさらに推進するためには、原因となる歯周病細菌を直接抑制できる方法や素因である宿主の防御機構をコントロールできる方法の開発が望まれる。

(コメント)
非常に素直な率直な文章であり好感が持て大好きな論文である。こういう人は伸びる。原因となる歯周病細菌を直接抑制できる方法や素因である宿主の防御機構をコントロールできる方法の開発が将来の方向であると私も思う。しかし,それには遺伝情報と臨床症状を突き合わせた解析が必要となるだろう。

(Keyword 3 )特異的な細菌と宿主との相互作用

1.6 おわりに
 上述したように、近年、歯周病に対する国民の関心が強まっているにもかかわらず、わが国における歯周病の罹患状況は改善されているとは言い難い。これは、われわれ歯科医療従事者が歯石除去やプラークコントロール以外の有効な歯周病予防法をもっていないことによるものと思われる。今後、歯周病の発病メカニズムの解明と病因論に基づいた新しい歯周病のリスク評価法・予防法の開発がさらに進展することを期待したい。

(コメント)
主要なポイントのみ抽出したが,非常にわかりやすい説明である。若くして13/10/26日にお亡くなりになられた。優秀な先輩の死を惜しむものである。岡田先生もわかりやすいが,古賀先生の方がもっとわかりやすいし正直な文なので,こちらを採用した。リンデ先生の方がもっとわかりやすく正直だ。日本の学者もリンデ先生の論調を学べば歯科医師も学生ももっとレベルが上がる。人間らしく語るべきだ。しかし,大枠を掴むには日本式論述が良い。

「宿主の応答が重要視されるべきである」と論調が変わってきた。現在では、歯周病はいくつかの特異的な細菌と宿主との相互作用によって惹起されると考えられている」が主流になってきた。
(Keyword 5)プラークは必要条件であるが十分条件ではない。十分条件はparasiteの器質変化,hostの感受性による(by okano) 
が論拠となる。

個々の人がもっている歯周病のリスクファクターは異なっている
原因となる歯周病細菌を直接抑制 
素因である宿主の防御機構をコントロール
これらの言葉は全てKeyword 5で解ける。そしてこれらの言葉は未来の歯周治療の方向を提示している。

6.歯周病細菌によるアポトーシスの誘導
西原 達次 九州歯科大学口腔微生物学講座教授 (254-260 先端医療シリーズ.歯科医学2 歯周病 先端医療技術研究所 2000年8月31日発行)

6.1はじめに
 歯周病が歯面に付着するプラークによって引き起こされる感染症であり、プラークコントロールで歯周組織の炎症を引き起こしている原因、すなわちプラークを除去しなければ、治療は成功しないことは広く認知されている。
しかし、いくつかの歯周病細菌の存在とその病原因子は明らかにされたものの(まだ確定されていない)、歯周病の発症と複雑な病態に関しては,不明確な部分がいまだに多く残されている。
 近年,歯周病が引き起こされるには、数種の嫌気性グラム陰性菌の存在が不可欠であるものの、宿主側の要因もその発症と進行に深く関与していることがあらためて指摘されている。当然のことながら,宿主と寄生体の相互作用を念頭に入れて研究を進めていかなければ、歯周病の病態を解き明かすことはできない。加えて、歯周病の発症と進行に関する宿主側の因子として、加齢の問題や遺伝的背景は避けて通ることはできない。今後,細菌の病原因子と複雑な宿主の応答(炎症反応および免疫応答)を加齢を含めたさまざまな角度から解析していき,そこで得られた情報を統合(の因果関係の分析を)していく必要がある。

(コメント)
    で訂正を行った。
疫学的には加齢,遺伝により,歯周病が悪化するみたいという感触は得られているものの,何故なのかという原因は解明されていない。静止期と活動期を分ける宿主の事情(加齢,遺伝)の関与が現在明らかにされていない。活動期における宿主の事情(加齢,遺伝)の役割が早く明らかにされることを切望する。静止期を活動期にした決定的な理由, trigger Factor(引き金を引く要因)があるはずである。そして,
(Keyword 5)プラークは必要条件であるが十分条件ではない。十分条件はparasiteの器質変化,hostの感受性による(by okano)
(Keyword 11)老化による再生能力,修復能力の変化(by okano)
の中にそのヒントが隠されているような気がする。
ここで静止期と活動期をいきなり出してしまって申し訳ない。最後に詳しい文献(バースト説)を載せたが,ここで軽く説明しておく。

歯周ポケット形成動態は静止期と活動期の2相がある。静止期は安定期とも修復期とも潜伏期とも非活動期とも呼ばれる。活動期は発症期,発現期,悪化期,バースト(勃発)である。ポケットの形成は少しずつ進行するのではなく,活動期,静止期というエピソードを繰り返して深部まで形成されるというものである。1歩進んで0.8歩下がるという具合である。下がるという現象が修復で実質ポケット形成深度は0.2ミリである。毎日0.1ミリずつポケット深度形成しているのではない。さもなくば15ミリの歯根が40年間も持つはずがないというバースト説である。そして幸いなことに静止期は長いというものである。私もそうだと思う。この考え方は重要である。

(Keyword 4)歯周ポケット形成動態は静止期と活動期の2相がある

 6.社会的・心理的ストレス刺激と歯周病
栗原 英見 広島大学歯学部歯科保存第二講座教授 (433-439 先端医療シリーズ.歯科医学2 歯周病 先端医療技術研究所 2000年8月31日発行)
6.1 歯周病と心理神経免疫学
 歯周病は感染症であり、その発症は宿主一寄生体相互作用という概念で捉えられる。歯周病の分類の基本もこの概念に沿ったものでありとりわけ、早期発症型歯周炎は宿主因子の機能的な異常を伴うものと位置付けられている。宿主因子の主体は、免疫応答を中心とした宿主防御機能であり遺伝的に拘束されたものとして理解されている。

(コメント)
(キーワード3)歯周病は感染症であり、その発症は宿主一寄生体相互作用という概念で捉えられる。

(これは現代の発症論の基本ですので覚えておいて下さい。この言葉を覚えておけば貴方の歯周学は100点満点です。出来ればキーワードを全て覚えておけば歯周学の大家です)
これは余り好きな論説ではない。先程も述べたように,遺伝であればどのような遺伝子をもてばそうなるのか? 宿主因子の機能的な異常を伴い,短期間のエピソードであれば歯が生えた時から無歯顎でならなければならない。可哀想なことだがそういう子供が書物ではいる。私は幸いなことにまだ直面していない。

 しかし,家系的に歯槽膿漏になるという患者さんを見ると,定期検査に応じない人が多い。家系的に歯槽膿漏予防に無関心な人が多い。家系の伝承として歯槽膿漏にならなければならないという呪いを信じているようだ。うちの母は若くして総入れ歯だった。「おまえらにカルシウムを取られてこうなった」と言って子供の話を聞いてくれない。だから,遺伝説は事実として認めるが余り好きではない。

ここからはリンデ先生の論説が中心となっていく。すっきり,さっぱり言いのけるのがリンデ先生の大好きなところだ。ここからいよいよ佳境に入っていく。

Jan Lindhe 臨床歯周学とインプラント 1999年7月25日 岡本浩監訳 クインテッセンス出版
(138)第4章 歯周疾患の微生物学 重要
 細菌は誕生から死まで口腔内に生息している。細菌は歯肉、頬,舌等の軟組織に定着し,歯が存在する場合その歯肉縁上にも縁下にも定着する。
400種以上の細菌が口腔に定着できると推測されており,典型的には1人に150種以上の細菌が住んでいる。歯肉縁下の細菌数は健康な浅い歯肉溝の103から,深い歯周ポケットの108以上まで様々である。歯肉縁上プラークの細菌数は1歯あたり109を越えることがある。したがって,数億から数十億の細菌が一生を通じて歯面、歯肉縁下に絶えず定着しているが,ほとんどのヒトの、ほとんどの歯肉部位はどんな時にも歯の支持構造の新たな喪失を示していない。この認識は重要である。

(コメント)
「この認識は重要である」ここがリンデ先生の好きな所。これは余り口腔清掃が上手と思えないのに歯肉炎でとどまっている人の説明に使える。そして,この逆説的な前置きは (Keyword 5)プラークは必要条件であるが十分条件ではない。十分条件はparasiteの器質変化,hostの感受性による(by okano) を理解するための伏線である。また疾患発症の引き金は何か?を考えさせる重要なお言葉である。

(Keyword 4)歯周ポケット形成の進行様態には静止期と活動期の2相がある
そして幸いなことに静止期は長い
活動期,悪化期と非活動期を分ける違いは何か? トリガーは何か? という疑問を常に意識して読んでいこう。

重要
歯周細菌と宿主の生態学的関係は概して良好であり,歯の支持構造の損傷はまれである。時に細菌のー部が入り込み,または過剰増殖し,あるいは新たな性状を発現し、歯周組織の破壊を導く。結果としての平衡の変化は,通常自然にあるいは治療により是正される。幸いなことに,いずれの場合にも細菌は歯肉縁上および縁下に新たなそして"平和的な''平衡状態で定着し続ける。

(コメント)
(Keyword 4)歯周ポケット形成の進行様態には静止期と活動期の2相がある
そして幸いなことに静止期は長い
を説明している。

(中略)
上述したように,歯肉縁部や縁下に継続的に細菌が定着していても歯周破壊の進行や既往の証拠は必ずしもみあたらない。 このような部位に定着している細菌の多くは歯周病原菌と考えられている。それらの存在にもかかわらず歯周組織破壊は起こらない。これは異常なことではない。この現象は他の感染症でも同様であり、疾患が起こるために病原体は必要ではあるが,それだけでは十分ではない。

(コメント)
(point 1)疾患が起こるために病原体は必要条件ではあるが,十分条件ではない。
この概念は重要である。hostと parasiteの関係を常に頭に留めて考えよう。
(Keyword 5)プラークは必要条件であるが十分条件ではない。十分条件はparasiteの器質変化,hostの感受性による(by okano)を導くためのフレーズである。

子供の勉強で例えてみよう。勉強するためには教科書,参考書,塾,学校,教師,場,時間(細菌)は必要であるが,子供に学ぶ心ニーズがなければ馬の耳に念仏,東風馬耳になってしまう。この場合学ぶ心(宿主の感受性)が十分条件となる。

ここでもう一つ概念が必要だ。parasite側にも発症するための十分条件が要る。つまり,細菌の種類,名前は同じでも性質,性格が変わった病原性を持った細菌の登場が必要だというのが十分条件だ。この概念は重要である。病原性細菌と名指しされているが静止期の病原性細菌は普段は人畜無害で仲良く存在している。そして病原性細菌が存在するというだけでは発症しない。クローンによって同種の病原性細菌が病原性を発現する能力を獲得する必要があるというのだ。

(Keyword 5)プラークは必要条件であるが十分条件ではない。発症の十分条件はparasiteの器質変化,hostの感受性による(by okano)

このキーワードは非常に大切です。これが歯周発症論の核です。

4・宿主の免疫応答 重要
 歯周疾患が細菌によって引き起こされるのであれば,宿主がそれらに対し免疫応答を起こすことが予測できる。それは実際に起こっており,破壊性歯周炎患者では,特定の歯肉縁下細菌に対する血清抗体の上昇を示す多くの研究がある。

図4-9 活動性部位と非活動性部位との間の検出菌数(×105±標準偏差)の有意な違い(p <0.05,
Kruskal-Wallis検定)。活動性部位は2カ月間に2 mm以上のアタッチメントロスを示す部位と定義される。
菌数は1患者の活動性および非活動性部位での平均を出し,さらに患者間で平均した。。75人の患者のすべてが非活動性部位を有しており, 25人が活動性部位を有していた。

歯周疾患の発症および進行の条件  重要
 病原菌が宿主に定着しても、数週間から10週間あるいはそれ以上の期間,宿主がなんらその疾病の臨床像を発現しないことは、多くの感染症でめずらしくない。したがって,歯周疾患の進行も、多くの因子が同時に出現することに依存しているといえる(socranskyとHaffjee 1992,1993)。宿主は全身的,局所的いずれにおいても感受性がなければならない。局所環境には、その感染を促進するか,少なくとも病原体の活性を抑制しない細菌が存在していることである。またその環境は病原体のビルレンス因子発現に適していなければならない。それはビルレンス因子発現の調節に影響を与えるか,または組織損傷を引き起こす性質を現わすように微生物に圧力をかけることであろう。病原体は、特定の個体の与えられた局所環境で感染の進行を開始ないし惹起するために十分な数に達しなければならない。幸いなことに、すベての因子の同時的出現は頻繁には起こらない。さもなければ歯周疾患はもっと頻発し,より重症となるであろう。

(コメント)
ここは読んでいてぞくぞくする内容である。そして,ここにわれわれの行くべき道を指し示している。
ビルレンスとは病原性と言う意味。
(point 2)
1.歯周疾患の進行も、多くの因子が同時に出現することに依存。
2.宿主は全身的,局所的いずれにおいても感受性があること。
3.局所環境には、その感染を促進するか,少なくとも病原体の活性を抑制しない細菌が存在していること。
4.その環境は病原体のビルレンス因子発現に適していること。
5.病原体は、特定の個体の与えられた局所環境で感染の進行を開始ないし惹起するために十分な数に達していること。

1.強毒歯周病原菌 重要
 歯周組織が健康な口腔から(Dahlenら1989,McNabbら1992)、あるいは歯周疾患がある口腔の健康部位(socranskyら1991)から採取したプラーク試料中に推測される歯周病原体が検出されることは,ある病原菌種のすべての株が強毒株であるか否かという疑問を呈する。最近10年間の認識の大勢は,ある病原菌種のすべてのクローンが等しいビルレンスではないということである。多くの医学的に重要な菌種に関しては,ごく一部のクローン型が,観察される疾患の大部分に関与している(socranskyとHaffajee 1991,1992に概説)。
動物実験によるP. gingivalisの潜在的病原性の研究は,株によるビルレンスの違いを支持している(GrenierとMayrand 1987, Marshら1989,Neideisら1989, Sundqvistら1991, van Steen-bergenら1987)。これらの研究は, p. gingivalisは分離株によりそのビルレンスが異なるという事実を強調し、健康部位から歯周病原体が検出される場合は、その株はビルロレンスがないということを示唆した。
病原体がビルレンスを発現するためのもう1つの条件は、その菌がすべての必要な遺伝子を持つことである。歯肉溝に生息する株はー部の遺伝子が失われているかも知れないが,その菌種の他の株(もしくは他の菌種)からフアージ,プラスミドあるいはトランスポソンを介してそれを受け取ることもありうる。こうして、健康歯周部位には,組織破壊を惹起するために必要なすべての遺伝因子のいくつかを欠いた歯周病原体が定着していると思われる。
 最後に、病原体が疾患を起こすためには,歯周部位の正しい位置に(例えばポケットの根尖側あるいは上皮側),病原体が十分な数で存在しなければならない。病原体には疾患を引き起こすために必要な最少菌数があるであろう。図4-10は推測される歯周病原菌の数の増加と共に,疾患進行のリスクが上昇することを示し、 A. actinomycetemcomitansおよびp. gingivalisの閥値菌数を示唆している。閥値菌数が達成されるためには、病原菌の"開花"を許容する環境の混乱が起こることが必要であろう。

(コメント)
(Keyword 6)病原体には疾患を引き起こすために必要な最少菌数(閥値菌数)がある
(Keyword 7)閥値菌数が達成されるためには、病原菌の"開花"を許容する環境の混乱が起こることが必要
(point 3)
1.ある病原菌種のすべてのクローンが等しいビルレンスではない。
2.ごく一部のクローン型が,観察される疾患の大部分に関与している。
3.株によるビルレンスの違いを支持している。
4.分離株によりそのビルレンスが異なるという事実を強調し、健康部位から歯周病原体が検出される場合は、その株はビルロレンスがない。
5.病原体がビルレンスを発現するためのもう1つの条件は、その菌がすべての必要な遺伝子を持つこと。
6.健康歯周部位には,組織破壊を惹起するために必要なすべての遺伝因子のいくつかを欠いた歯周病原体が定着している。
7.病原体が疾患を起こすためには,歯周部位の正しい位置に(例えばポケットの根尖側あるいは上皮側),病原体が十分な数で存在しなければならない。病原体には疾患を引き起こすために必要な最少菌数がある。
8.閥値菌数が達成されるためには、病原菌の"開花"を許容する環境の混乱が起こることが必要。

2.局所環境 重要
 もし歯周疾患の進行が比較的まれな現象であるのならば,ほとんどの定着菌種は宿主に適合しており、一部では積極的に宿主の役に立っているであろう。したがって微生物相互作用はある部位に定着する菌種の性状に影響し、結局は健康か疾患かの転帰にある役割を果たしている。ー部の相互作用は有害であり、前に述べた混合感染に至る。
その他は宿主にとってより有益であろう。宿主適合菌種は他の状況下では病原体が定着したかもしれない部位に定着しうる。それらはポケット中の病原体を"希釈''し,付着部位を病原体と競合するか,あるいはその部位を変化させる。また病原体により産生されたビルレンス因子を破壊することも考えられる(socranskyとHaffajee 1991)。
 細菌間の拮抗作用を注意深く検討した研究は,破壊性歯周疾患の生態学に関する我々の理解と密接に関連している。

(コメント)
(Keyword 8)微生物相互作用(相互的拮抗作用)はある部位に定着する菌種の性状に影響し、結局は健康か疾患かの転帰にある役割を果たしている

(中略) 重要
この相互的拮抗作用は高度に特異的で,その結果はある患者、あるいはある部位が, A. actinomycetemcomitansによる疾患を発症するか否かに強く影響する。このような相互作用は,病原菌種の定着あるいは拡散を容認するか、あるいは防ぐかという潜在的役割を常在菌叢が果たしていることを示している。研究者が通常の実験動物の微生物叢にヒトの口腔分離株を移植しようとした時(前述),あるいはヒトの分離株を別のヒトの歯肉縁下プラークへ移植しようとした時に,常在微生物叢の厳しい制御圧力が加えられる
 歯肉縁下の局所環境は他の様式でも病理発生に影響を与えることができる。より興味ある様式の1つは,病原菌種の強毒株が常にそのビルレンス因子を発現しているわけではない、という点である(socranskyとHaffajee 1991)。しばしば広範囲な"レギュロン"が多数のビルレンス因子の産生を同時にオン・オフする。 "レギュロン''は、温度,浸透庄,または鉄,マグネシウム、カルシウム濃度などの局所環境の特異的因子によって影響を受ける。蛋白質発現に対する環境の影響は、歯肉縁下菌種において示されている。例えば、環境中の鉄濃度はp. gingivalisの外膜蛋白の発現に影響し、またその株の動物実験モデルでのビルレンスにも影響する(Baruaら1990, BramantiとHolt1990, McKeeら1986)。ビルレンス因子発現に対する環境の影響は,研究における実り多き分野と思われる。この研究は、歯周疾患発症までの長い潜伏期開を説明する助けとなろう。おそらく病原体は常在菌叢の一員として長年の間その部位で静かに生息しているのであろう。しかし、環境の変化により引き起こされた何らかのストレスが、長い間隠されていた破壊的な因子の発現に影響を与えるものと考えられる。

(コメント)
補足-資料を参照すればわかることだが,Wood Pyrosには鉄,マグネシウムを凝集する働きがある。
(Keyword 9)しばしば広範囲な"レギュロン"が多数のビルレンス因子の産生を同時にオン・オフする。 "レギュロン''は、温度,浸透庄,または鉄,マグネシウム、カルシウム濃度などの局所環境の特異的因子によって影響を受ける

レギュロンとは調節因子のこと。レギュロンはこれだけでなく沢山ある。常在菌もレギュロンの働きをする。この言葉も大切です。

(point 4)
1.病原菌種の強毒株が常にそのビルレンス因子を発現しているわけではない。
2.しばしば広範囲な"レギュロン"が多数のビルレンス因子の産生を同時にオン・オフする。 "レギュロン''は、温度,浸透庄,または鉄,マグネシウム、カルシウム濃度などの局所環境の特異的因子によって影響を受ける。
3.環境の変化により引き起こされた何らかのストレスが、長い間隠されていた破壊的な因子の発現に影響を与える。

 
3.宿主の感受性
 歯周疾患の微生物性病原因子の検索に比べて相当長い期間歯科臨床家達は,歯周疾患のパターンあるいは程度の違いは,宿主の感受性(以前は抵抗性という用語を用いていた)によるとの仮説をたてていた。その仮説にもかかわらず"宿主の感受性因子"はほとんど同定されなかった。研究の進展および集団を比較する方法の改良により,歯周疾患の発症および進行率に影響を与える多くの宿主および環境因子が示唆された。それらの因子とは,多形核白血球の数およびその機能の欠損、免疫応答調節不全,喫煙、食餌および様々な全身性疾患等である(BergstromとEliasson 1987, depommereauら1992, Gencoら1986, GreenspanとGreenspan 1993, Greenspanら1989, Seppalaら1993, ThorstenssonとHugoson 1993, Williamsら1990)。
 消耗性全身性疾患は感染に対処する宿主の能力を変え、既存の感染症を悪化させる。初期の研究において, HIVに感染していない患者と比較し, HIV陽性者は歯周疾患に罹患しやすく,より重症であると思われた(GreenspanとGreenspan1993, Greenspanら1989, Williamsら1990)。
(中略)
しかし、HIV陽性者のすべてが必ずしも歯周疾患に罹患するわけではなく、もちろん極端な急速進行型になるわけでもない。加えて、軽度または急速型の患者は、局所の清掃(デプライドメント)、消毒薬洗口,抗菌薬の局所または全身投与を含む通常の歯周療法により治療することが可能である(GreenspanとGreenspan 1993, Williamsら1990,
winklerとRobertson 1992) 。
 歯周疾患の罹患率および発症頻度の上昇にかかわっているもう1つの全身性疾患は糖尿病である。
 HIV陽性者および糖尿病患者の研究の興味深い点は,ほとんどの場合歯周病変部からはすでに報告されている病原体が検出されており、新しい菌種ではないことである。このような研究は,宿主感受性の変化は疾患進行率に変化をきたすが、概して歯周病原体は、非易感染性被験者のそれとほとんど同程度であることを示唆している。

第5章
歯周炎の病因論 重要
 微生物プラークに対する炎症反応と免疫反応が,歯肉炎と歯周炎の際立った特徴である。炎症反応は罹患歯周組織に、顕微鏡的にも臨床的にも認められ、それはプラーク微生物叢とその産物に対する宿主の応答をあらわしている。前章で微生物プラークの構成と特徴について論じた。本章ではこの微生物の攻撃に対して,宿主が応答する機構と,その結果生ずる、臨床的には歯周疾患として認められる歯周組織の病的変化に焦点を当てる。
 炎症過程と免疫過程は、局所的な微生物の攻撃に抵抗し,微生物が組織内に広がることや侵入することを防ぐために,歯肉組織中で作用している。
場合によってはこれらの宿主防御反応は、炎症が周囲の細胞や結合組織構造を損傷しうるということにおいて、宿主に有害である。さらに,ポケット底部を越えて結合組織内に深く広がる炎症反応と免疫反応は、歯槽骨をこの破壊過程に巻き込むかもしれない。このようにこれらの"防御"過程は,歯肉炎や歯周炎で観察された組織損傷の多くを,逆説的に説明していると思われる。
 歯周組織の炎症反応と免疫反応は、 体の他の部位でみられる反応と類似しているようにみえるが、重要な違いがある。ある程度まで,この違いは歯周組織の解剖形態に起因している(1章参照)。すなわち特有の多孔性接合上皮は、顕著な細胞および体液のダイナミックスを有し、また絶間なく硬.軟組織界面部で上皮の連続性を保とうとしている。さらに,歯周組織における炎症過程と免疫過程は、 1つの微生物種だけに対する応答では決してなく、それらは比較的長期間にわたって作用する多数の微生物と、その産物に対する応答である。歯周ポケットには400以上の異なる微生物が含まれ、それぞれは異なる疾患誘発能を持ち、環境および定着の時期に依存して変化する。歯周疾患は時に、 2種類以上の微生物が発病に関与していることを意味する"混合細菌感染''として考えられている(Mayrand 1985)。微生物は相互に作用し合っている。そしていくつかの微生物種は明らかな病原体ではないかもしれないが、それでもそれらは特定の増殖因子や防御因子を提供すことにより、他の微生物のビルレンスを高めて,疾患の進行に影響を及ぼしうる。歯周ポケット内の微生物叢は絶えず変化している;ある病期と関連している種は,他の病期では重要ではないかもしれない。言い換えれば,歯周組織破壊は、経時的に変化する細菌因子の組み合わせで生ずるのかもしれない。このことは多くの他の古典的感染症(例えば,結核、梅毒,淋病)において,宿主は多数の微生物,というよりはむしろ,単一の微生物と戦っており,ある疾患の活動状態の診断は病原体の有無に関連していて、非常に単純であることと対照的である。歯周疾患において炎症反応と免疫反応を惹起し、かつ持続させる分子的現象は、絶え間なく変化しており,それは多数の微生物種(それらの多くは常在菌と考えられている)によるものと思われる(歯周病の微生物学の詳細は4章を参照)。
 微生物のビルレンス特性はまた、細菌自体の直接作用と同程度に,個々の宿主の炎症能力あるいは免疫能力とも関連しているようである。歯周組織破壊は、炎症を引き起こす細菌産生ビルレンス酵素か,グラム陰性菌の老廃物,あるいは外膜成分のリボ多糖体に対する免疫反応に起因する。
 疫学的研究によると,歯周組織の高さの減少は加齢に伴って普通に生ずるが、それぞれの年齢群の比較的少数の被験者に進行した歯周組織破壊がみられること,すなわち、リスクグループが存在することを示してきた。さらに、同一の個人においてさえ、歯周組織損傷の程度は,歯によってまた歯面によってしばしば異なる。このように、ある個人の口腔内で,多くの歯の結合組織性付着と歯槽骨が著しく喪失していても,その他の歯あるいは歯面(部位)はほとんど罹患しておらず,正常な歯周組織で囲まれているかもしれない。したがって,歯周疾患に感受性があり,そして現に発病しているある患者は、 "一様なhomogeneous"状態で罹患しているわけではない。彼/彼女の口腔の個々の罹患部位は, "個性化されたindividua-1ized'',あるいは"特異的な''微小環境を表現している。 部位によっては、炎症性病変は深部組織に波及せずに,長期間歯肉に限局している(歯肉炎)かもしれない。他の部位では,活動性歯周組織破壊が生じているかもしれず、この組織破壊は本章で後述する様々な因子の結果である。

(コメント)
(Keyword 10)一歯毎面毎に特異的な個性化された小宇宙,微小環境がある

一歯でも面毎に小宇宙,微小環境があるというお言葉に歓喜を覚える。常々疑問に思い,同じ事を推論していた。これで1壁性の説明論拠がつく。また一歯ごとに疾患のありようが違う事に疑問を感じていた。体質だ,遺伝だ,ストレスだ,免疫能力だ,では全歯に渡って壊滅状態か全歯に渡って均一なダメージ状態でなければならない。わたしが言っても無視されるが,リンデ先生が言ってくれれば説得力がある。嬉しい。我が意を得たりという心境である。

 疫学的研究の結果は,歯周疾患の罹患と範囲が、年齢および不適切な口腔衛生状態に比例して増加することを一貫して示している(2章参照)。歯周疾患罷患部の範囲と程度に関する研究は、破壊性歯周疾患の有病率と進行についての我々の見解を変えた。各年齢群において,比較的少数の被験者に進行した歯周組織破壊がみられ,これらの少数者では,歯周組織のほとんどの部位が重度に罹患している(Yoneyamaら1988, Papalpanouら1988, JenkinsとKinane 1989, Loeら1986)。さらに,疾患検出を明示するための大きな限界値を用いた長期的研究では,比較的少数の部位が観察期間内で広範な歯周組織破壊を受け,しかもそれらは、母集団内の小さな亜集団にのみ観察された(Haffajeeら1983,1983, Lindheら1983, Jenkinsら1988)。 Lindheら(1989)は2年の観察期間中に、 3mmかそれ以上悪化した部位の70%が、経過観察できた被験者のわずか12%だけに生じていたと報告した。さらにSocranskyら(1984)は,歯周炎は増悪と緩解を繰り返しながら(エピソード的)進行する(バースト説)と提案した
 より最近の研究では、進行はエピソード的というよりむしろより連続的に起こり、 "バースト"の検出は臨床的計測法に問題があるためではないか,と提案した(OeffcoatとReddy 1991)。
 最近の見解を要約すると,歯周疾患は患者に関連した疾患である;少数の人々が数本の歯の進行性破壊を経験する;そして疾患の進行はおそらく連続的で,局所的な増悪と緩解の短期間のエピソードを伴うということである。

(コメント)
(Keyword 4)歯周ポケット形成の進行様態には静止期と活動期の2相がある

 高い水準の口腔衛生が保たれている正常者には,歯肉疾患または歯周疾患は発現しにくい。しかし,短期間の臨床実験によると,そのような人が機械的な歯面清掃をひとたび中断すれば,微生物は清潔な歯の表面にすぐに定着し始める。そして数日以内に,歯肉炎の顕微鏡的および臨床的な徽候がはっきりしてくることが明らかになっている。このような炎症性変化は,適切な歯面清掃が再開されると,回復または消退する(Loeら1965)。このようにプラークを形成する微生物は,歯肉炎を誘発する物質を持っているか、放出する。
この結論は,可溶性プラ一ク抽出物はそれを歯肉に塗布すると,歯肉組織に炎症性変化を惹起するという所見と一致している(He11denとLindhe1973)。長期間の臨床的研究により,ヒトの歯周疾患を成功裏に治療するためには,歯肉縁下微生物プラークを除去することが重要であるということが明らかになった(Ramfjordら1968, AxelssonとLindhe 1978, 1981, LindheとNyman 1975,1984)。
 さらに,動物実験(特にイヌとヒト以外の霊長類)では,歯肉/歯周病変の感染病因論が確証された。例えば,ビーグル犬で行った長期観察により、細菌性プラークが蓄積している動物にだけ、歯肉炎が発現することが示されている。炎症性変化は数年間にわたって歯肉領域に限局しているが,ある部位では結局歯肉炎が,結合組織性付着と歯槽骨の喪失を引き起こす破壊性歯周疾患へと移行する(saxeら1967, Lindheら1975)。
 研究結果では,大部分の歯周疾患はプラークに起因する疾患で、それは歯肉の明らかな炎症として始まることを強く示唆している。もし治療しないで放置すると,一部の感受性のある人々においては,炎症は歯周組織の深部に波及すると思われる。現在のところ,なぜある患者においては病変が歯肉の辺縁部に限局したままなのか,そして別の患者では結合組織性付着や支持歯槽骨の喪失を引き起こすところまで進行するのか,その理由は不明である。同様の議論は感受性のある人の個々の部位についても当てはまる。明らかに,宿主-微生物関係の何らかの不均衡が破壊性病変に生じており,この病変は概してその部位および歯周疾患感受性を有する人々に特有の変化であろう。

(コメント)
以上リンデ先生の気に入った所を抜粋した。
ここまで読んでくれば,なぜ歯を真面目に磨いていると思えないのに歯周疾患にならないのか? 真面目に磨いているのになぜこの人は罹患するのかという疑問が解けてくる。

「歯槽膿漏になるのはなぜですか?」という質問に対し「年だから」と答えると若い患者さんは怒る。老化が感受性に対しどのようにデメリットファクターとして働いているのか書かれていない。まだわからないのであろう。
老化による感受性の変化と再生能力,修復能力の変化がデメリットファクターとしてあげられると思うのだが...。
(小生の推測論拠)
子供や老人は抵抗力が弱いとされている。しかし,子供の不潔性歯肉炎は目撃することはあっても,歯周炎になったのを小生は見たことがない。この違いはどこから来るのだろうか? 老人と子供の大きな違いは再生能力,修復能力の違いである。この違いにより,子供は歯周炎にならないと推測される。

(Keyword 11)老化による再生能力,修復能力の変化(by okano)

また,乳菌酸が歯槽膿漏に効くというのもあながち嘘でもなさそうという気もしてくる。

また,これらの文献から教えられることは歯磨きが上手だから歯周病にかからないという保証はないという事であり,かつまた歯磨きが下手だから歯周病になったと叱ってはいけないこともあるということである。というのは完璧に磨けるのは非常に困難だからだ。また,ポケット内に残っている僅かのプラークでも十分条件を満たすこともあり得るからだ。
歯肉縁下の細菌数は健康な浅い歯肉溝で103。
103でも炎症反応を起こしている--臨床的健康歯肉は炎症反応あり
 すべては十分条件,レギュロンのなせる技であるからだ。これは憐れむべきであり,十分条件,レギュロンスイッチをコントロール出来る術(すべ)をいまだ持っていない我々医師側に責任があり,怒って済むことではない。我々はまだ無力であるということを再確認したい。
 また,どんなに磨いても細菌は残っているということも我々はもっと素直に認めるべきである。そして,そのような状態でもparasitet側に不幸にも発症する条件,環境が整ってしまったこと,反応してしまったホストの感受性に思いやりをもつべきである。二度とそのようなことがないように,我々はどうしてあげられるかを考えるべきである。そして,我々はもっとホストの感受性とパラサイトのあり方,ポケット環境のコントロールを模索することも大事だ。
 歯肉溝縁上のプラークを取り除くことは歯肉縁下の細菌叢を変化させ,良好な細菌叢にさせるということも基本的だが大事な概念である。肝に銘じて欲しい。host の感受性という概念を欠落して,PMTC,SRP TBI に拘り,それで事足れりと思うのは前記の石川論文のように一昔の知識,概念であり,単純で恥ずかしい限りである。また,これらの術式が「ポケット環境の改善,コントロールに寄与しているのだ」という意義を理解して貴方は治療にあたっているだろうか? なんの根拠,意味もわからずプラークがなくなれば歯周疾患が治るでは恥ずかしい限りではないだろうか? 今回述べた知識を頭の片隅に置いて治療にあたって頂きたい。それが本当の治療である。

ここまでくれば次のキーワード13が導き出されることを理解して頂けるかも知れない。
(Keyword 13)ポケット環境のコントロール⇒レギュロンスイッチコントロール⇒ビルレンス発現遺伝子を備えたクローン出現,産生のコントロール⇒歯周疾患発症コントロール (by okano)

(Keyword 13)ポケット環境のコントロール⇒歯周疾患発症コントロール (by okano)

正常歯肉には,理論的には組織学的炎症は存在しないが,この"理想的"状態はヒトでは,専門家による指導のもとで数週間にわたって毎日徹底したプラークコントロールを行う実験的条件下でのみ獲得できる。
このような細心の注意を要し,また時間を費やす口腔衛生法は並大抵のことではない。それゆえに我々が, "臨床的健康歯肉''としてルーティンに分類している歯肉は、 "正常歯肉"ほどには組織学的に完璧ではない。臨床的健康歯肉とは、典型的には、良好な水準のプラークコントロールを,規則的に実行する患者が達成できる健康のレベルのことである。         炎症性細胞の"明らかな''浸潤が認められない正常歯肉は、むしろ"純粋pristine歯肉''とよんだほうがよいかもしれない。このように、我々は健康歯肉の2つの型,すなわち組織学的に.炎症性細胞浸潤がほとんどないか全くみられない超健康状態ないし"純粋"状態と,臨床的には同じようにみえるが、組織学的には炎症性細胞浸潤があり、臨床の場で日常的に見ている健康歯肉である"臨床的に健康な"歯肉とを区別する。

(コメント)
(Keyword 12) 臨床的に健康な歯肉には織学的には炎症性細胞浸潤がある

このように歯垢清掃が如何に難しいか,炎症反応から逃れることは出来ないという事を再確認した上でWood Pyrosの治癒機序について考察してみよう。
(考察)
Wood Pyrosには抗炎症作用,毛細血管拡張作用,収斂作用などがあるが,蛋白と瞬時に反応する作用が有力な治癒機序と思っている。
1,ポケットを揺さぶるような歯肉マッサージでないと効果がない。
2,3分以上歯茎をWood Pyrosに浸透させないと効果がない。含嗽では効果がない。
3,歯頚部が磨けていないと効果がない。
以上で推定されることはポケット内の起炎物質とWood Pyrosが3分以上の化学反応がないと効果がない,ポケット内起炎物質を可及的に除去出来ないと効果がないという事である。

Wood Pyrosはhost--parasiteの2つコントロール出来る物と言う積もりはないが,何故かこれらのコントロールに役に立っているという気がする。
1,まず,Wood Pyrosは殺菌消毒を意図としていない研究者に任せる。長年経っている。臨床医として待ち続けている。とりあえず違った道,歯周環境改善法で進む。今迄の論文を読めばコントロールが如何に大事か分かって頂けたと思う。(論拠-ホストの感受性とパラサイトのあり方,環境)
2,ポケット内にある起炎物質と蛋白凝固反応で反応するものを固体化し,取り除くということを意図している(このため膿球は速やかにゲル状となる)。
ポケット清掃・parasiteの減少・最少菌数(閥値菌数)に達しない=発症の十分条件を満たしていない
ポケット清掃・環境改善(レギュロンスイッチ オフ)・常在菌の安定(レギュロンスイッチ オフ)に寄与・parasiteの形質変化を妨げるのに寄与,
(膿汁を取り去ることは鼻汁除去,目洗浄,創洗浄と同じ意図。歯ブラシだけで歯磨きすると食汁の味が消えないがWood Pyrosでは食汁はしない。これは蛋白凝固反応による。)
3,収斂作用により,腫脹減少を図るhostの感受性安定に寄与
4,毛細血管拡張作用により,血行改善を図る。これは免疫能力を高めるに寄与。酸素供給能力を高める働きに寄与hostの感受性安定に寄与
5,抗炎症作用,知覚鈍麻作用による炎症緩和に寄与hostの感受性安定に寄与
6,濃度差による浸透圧作用と収斂作用により(口内炎も治る。他項で治癒機序は説明済み),オープン状態の歯肉溝をイソギンチャクのように収縮せしめ,その内容物(起炎物質)を吐き出させるポケット内の起炎物質の減少に寄与parasiteの減少&hostの感受性安定に寄与
組織内圧の減少hostの感受性安定に寄与
7,parasiteを可及的に少なくする・バーストのための閾値菌数不足・十分条件を満たしていない
8,hostへの刺激(ストレス)を軽減する・安定化に寄与・感受性を発現させない。

(Keyword 13)ポケット環境のコントロール⇒レギュロンスイッチコントロール⇒歯周疾患コントロール (by okano)

どこまでWood Pyrosの治癒機序の推察が本当かわからないが,そうあって欲しい。
食汁さえ取りきれない歯磨き粉をつけないブラッシングは馬鹿げている。食汁,膿汁,起炎物質を取り去りポケット環境コントロールに寄与出来るWood Pyrosを使う方がもっと理にかなっているということが,ここまで来れば分かって頂けることと思う。

我々は何気なく歯垢清掃すれば歯周病は治ると思ってはいけない。hostの感受性、ポケット環境--レギュロンスイッチ--parasiteの器質変化 を心に留め治療,処置を決定し行うべきである。慢性期で安定しているのに侵襲を加えることによって急性期に移行させるような愚を犯してはならない。高度歯周疾患患者に初診からscalingという侵襲を加えるのはその最たる物である。
 指で患歯を押さえながら,血が出ないようなscaling を行うべきである。host に語りかけながら,これをしてもいいですか?と相談しながら,術前投与をした上で処置を行うべきである。歯ブラシの仕方にしても同様である。
最初から強い力で,血の出るようなブラッシングは原因物質であるプラーク,細菌数の減少のみが念頭にあり,hostに対する思いやりが欠けている。

Wood Pyrosを使うにあたって,基本的な概念を確認したい。

パラサイト器質変化--レギュロンスイッチ--ポケット環境

(Keyword 13)ポケット環境のコントロール⇒レギュロンスイッチコントロール⇒歯周疾患コントロール (by okano)

この事を念頭において事にあたってもらいたい。そうすれば自分のしている治療が治癒機序体系のどの位置にあるのか,又その意義と意味も,又なすべき治療も,治療の仕方も,患者さんへの思いやりも見えてくる。
拙い説明であったが,この一言の意味,意義がわかって頂ければ小生の本望とするところである。

追記
非常にわかりづらいという批判に応えて患者さん用の発症論を書いたので,あわせて読んでいただきたい。各論については定期購入発送の際に添付します。

(追加資料)活動期と静止期についての説明資料 
(小生の説明はいろんな文献がごちゃまぜになっており,探すのが一苦労です。時間がないので,これだけで勘弁して下さい。)
第2版Lindhe 臨床歯周病学 医歯薬出版 岡本 浩 監訳 1986-1996年発行
(135) 歯周疾患の進行:疾病活動の勃発(パースト)説
1980年以前のヒト集団における疫学的研究と長期間の臨床的研究の結果から,プラークおよび歯石が存在すると,歯周疾患の重篤度は年齢に比例するという見方が大勢を占めていた。またこのデータによれば,ひとたび罹患すると,この疾患は人によって程度差こそみられるが,生涯にわたって歯周組織を絶え間なく破壊し続けると考えられてきた。ここでは,時間と"不適切な口腔衛生"が罹患の状態を左右する基本的な変数であると考えられた。
(中略)
 歯周疾患の発現および進行の速度は,歯列の各歯面によって明らかに差異が認められる。たとえば,疾患の進行したある部位を長期間にわたって観察すると,付着や歯槽骨がそれ以上喪失することがないことがある。このことは,歯周疾患の進行(アタッチメントレベルの変化)について65人の治療を受けていない成人性歯周疾患患者群を6年以上にわたって観察したLindheら(1983)の研究により示された。一個人について, 1年あたりの平均的な付着の喪失は0.18mmであった(初期の疫学研究の報告と類似している)が,しかし観察期間中に引き続き実際に付着の喪失がみられたのは全診査歯面のわずかに12%であった。また最初の3年間に付着の喪失が観察された歯面のうち,その後の3年間にさらに歯周組織の喪失が起こった歯面は40%にすぎなかった。他の研究で, Haffajeeら(1983)は未処置の歯周疾患患者22人のアタッチメントレベルを追跡調査した。3,414歯面を1年間にわたって2カ月ごとに診査した.観察期間中に付着の喪失がみられた歯面は約3%だけであった。そしてこのときの喪失量は2カ月間で2〜5mmであった(初期の研究で算定された0.1〜0.2mm/年より相当高い)。このように,個々の部位で生じる歯周組織破壊の速度および程度は以前に認められていた値よりずっと高いと思われる。すなわち,もし組織の喪失が実際にこの割合で持続すれば,罹患歯は(136-2)数年以内に喪失することになるであろう。したがって,歯周疾患は単に絶え間なく,ゆっくりと進行するというわけでないことは明らかである。ある場合には,組織破壊は非常に短期間に起こる.そしてこれに続いて長期の静止期になる。このときある種の平衡状態が確立され,組織破壊を最小限にくい止めるか,あるいは阻止すると思われる。
 
(追加資料)バイオフィルムについての説明資料 
1.5 バイオフィルムとしてのデンタルプラーク
 歯肉縁下プラーク1mg中には108から109個の細菌が含まれる(図6.1.2)。この中で,歯周病細菌は浮遊細菌として存在するのでなく、多くの種類の口腔細菌と共に凝集塊を形成している。歯周病細菌は、歯肉縁下プラークのエコシステム(共生,共存関係)で,それぞれ特別なコミュニティーを形成している。 P gingivalis, Bjorsythus、 Tdenticolaが同時に検出されることなどは,歯周病細菌の特徴的棲息様態を示す1つの事例である。
この歯肉縁下プラーク(デンタルプラーク)は,細菌凝集塊がキョウ膜様糖衣(glycocalyx)に被われることによって形成される典型的な病原性バイオフィルムである。
 バイオフィルムの中の歯周病細菌側から見ると、この状態は好中球やマクロフアージの攻撃,さらには免疫グロプリンや補体の作用によって防御されていることになる。また抗菌薬や殺菌剤も深部へ浸透しにくくなるため、その効果は減弱する。細菌のこのようなバイオフィルムの性状は、歯周病が難治性あるいは慢性炎症巣となる増悪因子の存在によって説明される。 
要約(by okano)
歯周病細菌は浮遊細菌として存在するのでなく、多種類の細菌とエコシステム(共生,共存関係)で凝集塊を形成し,キョウ膜様糖衣(glycocalyx)に被われた病原性バイオフィルムである。
 

参考.まとめ
(Keyword1)局所因子こそ炎症の主役であり,局所因子の存在下で全身因子は働く
(Keyword 2 )バイオフィルムとは多類細菌凝集塊がキョウ膜様糖衣(glycocalyx)で被われたもの
(Keyword 3 )特異的な細菌と宿主との相互作用
(Keyword 4)歯周ポケット形成の進行様態には静止期と活動期の2相がある
そして幸いなことに静止期は長い
(Keyword5)プラークは必要条件であるが十分条件ではない。十分条件はparasiteの器質変化,hostの感受性による(by okano)
(Keyword 6)病原体には疾患を引き起こすために必要な最少菌数(閥値菌数)がある
(Keyword 7)閥値菌数が達成されるためには、病原菌の"開花"を許容する環境の混乱が起こることが必要
(Keyword 8)微生物相互作用(相互的拮抗作用)はある部位に定着する菌種の性状に影響し、結局は健康か疾患かの転帰にある役割を果たしている
(Keyword 9)しばしば広範囲な"レギュロン"が多数のビルレンス因子の産生を同時にオン・オフする。 "レギュロン''は、温度,浸透庄,または鉄,マグネシウム、カルシウム濃度などの局所環境の特異的因子によって影響を受ける
(Keyword 10)一歯毎面毎に特異的な個性化された小宇宙,微小環境がある
(Keyword 11)老化による再生能力,修復能力の変化(by okano)
(Keyword 12) 臨床的に健康な歯肉には織学的には炎症性細胞浸潤がある
(Keyword 13)ポケット環境のコントロール⇒レギュロンスイッチコントロール⇒歯周疾患コントロール (by okano)

(point 1)
疾患が起こるために病原体は必要条件ではあるが,十分条件ではない。
(point 2)
1.歯周疾患の進行も、多くの因子が同時に出現することに依存。
2.宿主は全身的,局所的いずれにおいても感受性があること。
3.局所環境には、その感染を促進するか,少なくとも病原体の活性を抑制しない細菌が存在していること。
4.その環境は病原体のビルレンス因子発現に適していること。
5.病原体は、特定の個体の与えられた局所環境で感染の進行を開始ないし惹起するために十分な数に達していること。
(point 3)
1.ある病原菌種のすべてのクローンが等しいビルレンスではない。
2.ごく一部のクローン型が,観察される疾患の大部分に関与している
3.株によるビルレンスの違いを支持している
4.分離株によりそのビルレンスが異なるという事実を強調し、健康部位から歯周病原体が検出される場合は、その株はビルロレンスがない
5.病原体がビルレンスを発現するためのもう1つの条件は、その菌がすべての必要な遺伝子を持つこと
6.健康歯周部位には,組織破壊を惹起するために必要なすべての遺伝因子のいくつかを欠いた歯周病原体が定着している
7.病原体が疾患を起こすためには,歯周部位の正しい位置に(例えばポケットの根尖側あるいは上皮側),病原体が十分な数で存在しなければならない。病原体には疾患を引き起こすために必要な最少菌数がある。
8.閥値菌数が達成されるためには、病原菌の"開花"を許容する環境の混乱が起こることが必要
(point 4)
1.病原菌種の強毒株が常にそのビルレンス因子を発現しているわけではない、
2.しばしば広範囲な"レギュロン"が多数のビルレンス因子の産生を同時にオン・オフする。 "レギュロン''は、温度,浸透庄,または鉄,マグネシウム、カルシウム濃度などの局所環境の特異的因子によって影響を受ける
3.環境の変化により引き起こされた何らかのストレスが、長い間隠されていた破壊的な因子の発現に影響を与える
以上のポイントから
(Keyword5)プラークは必要条件であるが十分条件ではない。十分条件はparasiteの器質変化,hostの感受性による(by okano)
が導き出される。また,変形として
(Keyword5)プラークは必要条件であるが十分条件ではない。十分条件はポケット環境とhostの感受性による(by okano)
また
(Keyword 13)ポケット環境のコントロール⇒レギュロンスイッチコントロール⇒parasite産生コントロール,ビルレンス発現遺伝子クローン発現,器質変化,活動(活動期)のコントロール⇒歯周疾患コントロール (by okano)
変形として
(Keyword 13)ポケット環境のコントロール⇒歯周疾患コントロール (by okano)
も導き出され,hostの感受性をコントロール出来ない現状においてはポケット環境のコントロールこそ現段階で我々に残された治療のための唯一の手段であることがわかる。

(参考文献並びに愛読書)
ペリオドンティックスの臨床 歯界展望/別冊 医歯薬出版 1977
先端医療シリーズ.歯科医学2 歯周病 先端医療技術研究所 2000年8月31日発行
Lindhe臨床歯周学とインプラント 1999年7月25日 岡本浩監訳 クインテッセンス出版
第2版1刷 Lindhe 臨床歯周病学 1992年4月30日 岡本浩監訳 医歯薬出版
歯周治療学 石川純,中静正編集  昭和56年9月20日第1版 医歯薬出版
グリックマン 臨床歯周病学 第6版 西村書店 1993年3月31日初版第1刷
歯周病は自分で防げる治せる 漢方うがい薬 渡辺秀司著 マキノ出版
(座右の書)
歯槽膿漏--抜かずに治す 片山恒夫 1993年1月10日第5刷 朝日新聞

(自己紹介)
岡野 吉喜  岡野歯科医院  大阪府門真市脇田町17-1 TEL/FaX 072-881-7314
九州大学歯学部同窓会近畿支部支部長 Wood Pyros歯磨剤開発普及推進本部
第50回口腔衛生学会総会(愛知学院大学)13.9.30Wood Pyrosの有効性を発表
趣味--鮎釣り,スキー,ごろ寝 性格--なまけもの,いいかげん